その十件

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一人芝居

喫茶店経営 〜 ある日のマスター


ー ポットのシューシュー言う音。CDはブラームス
ー カランというベルの音
「あ、いらっしゃい。どーもー」
「今日、ちょっと早いんじゃない。これからお出かけ?え、おととい徹夜で、今朝、変に早く目が覚めたの。いつも忙しそうだもんね。そう、開店準備なの。新規の店の。いや儲かってるようじゃない。そうでもない?そう」
「いつもの?モカ?はいモカひとつ」
「灰皿どうぞ。それでどうなの店長って?忙しい。そう。アルバイトばっかりなんだってね。大変だね。そっちもアルバイトだから、同じだって?そんなことないでしょ。長いんだし」
「でも、今日は久しぶりにいい天気だね」
「なんでサイホンじゃないんか?これね、自分が好きなだけなの。こうやって、ネルのフイルターにコーヒー入れて、お、ちょっと熱いかな。それで、こうゆっくりお湯をたらすでしょ。そしたら、ほら、こう、コーヒーが泡立って盛り上がるじゃないですか。この感じが割と好きなの」
「はい、おまちどう。ミルク使いましたっけ?今日は要る?そう。どうぞ」
「落ち着くって?いやどうも、ありがとう」

ー カランというベルの音
「いらっしゃい。はい。おはようございます。あ、マフラーね。そこに掛けられますよ」
「いや、寒くなりましたねー。何にします?」
「はい、カフェモカね。少々お待ち下さい」
「風邪大丈夫かって?いやどうも。先週までちょっとね、喉が痛かったんですが、大分良くなりました」
「そうですか。仕事はきついですよね。あはっ、嫌な上司ね。よくいるんですよ。いや私もね、以前は勤めてたもんですから、分かりますよ。あー、その上司がいちいち指示する。なるほどね。いや、Tさんが仕事できるんで、逆にやきもち焼いてるんじゃないですか。そんなことありませんよ。いつもお忙しそうにしてるし」
「はい、カフェモカお待ちどうさまでした。クリーム多過ぎやしませんでした。そうですか」

「Tさんが今日はきれいだ、って?今日も、って言うんだよ」
「いや、私はお世辞なんか言いませんよ。いやホント、アハ」

「今日は、ごゆっくりですね。あ、これから出張ですか。それで、直行するんですか。でも大変そうですね。そんなに荷物持って」
「平気ですか。このごろは女性もたくましいですからね。え、いやー、逞しいってことはないですよね。とってもスリムなんだからね」
「それでもやっぱり疲れる。そうですよね。でもあれ、何でしたっけ、そう岩盤浴、あれが良いらしいじゃないですか」
「あー、もう行って来た。そうですか。気持ち良いんですかね?そう、気持ち良い。汗がじんわり出て。そうですか」
「はい、お出かけですか。はいいつも、毎度ありがとうございます。お気をつけて」

ー カランというベルの音
「お勘定?はい、ありがとうございます。あれ、追っかけて行くの。違うって、そうですか。えへ。はいはい、仕事ね。はい気をつけてー」

ー カランというベルの音
「ありゃ、あいつ追っかけてくよ。あっあっー、とっとっとっと。あーあ、転んじゃったよ。あせって追いかけるから。でも頑張れよー」

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レストランのギャルソン 〜 ある日のギャルソン


ー ギャルソン、お客にワインを勧めている。客は剣襟の黒い三つ揃いを着た恰幅のよい紳士と豹柄のミニスカートにサーモンピンクのカットソーの若い女

「お客様、これがロブションのボジョレ・ヌーボーでございます」
「ほー、あのロブションかね?」
「さようでございます。あの有名なレストランのロブションがセレクトいたしました、高級ボジョレで、ございますよ」
「きゃー、パパ、すてきー、高級ボジョレーだって」
「そうか?じゃこのボジョレー、いってみようか?」
「はい、ありがとうございます」

ー 封を切ってコルクを抜き、客にサーブするギャルソン
「いかがでございますか」
「うん、なかなかいいよ。さすがボジョレーだね」
「んじゃ、パパ、乾杯!」
「パパ、なんかこのワイン、ジュースみたいね?」
「ばか言え、高級ボジョレーだぞ」
「私、飽きちゃった。後、パパ飲んでー」
「ボーイさーん。私ねウーロン茶」
「はい、かしこまりました」

「お料理は何にいたしましょうか?コースとアラカルトがございます」
「ワタシ、お肉がいいな」
「今日のコースは鶉でございます。よいのが入っておりまして、如何でしょうか?」
「じゃコースにするか」
「受けたまわりました」

「このメニューのグルヌイユのパセリバターソース、エポートルのリゾット添え、って何だ?」
「知らないわよ。パパに、お、ま、か、せ」
「そうか、そうか」

ー 客、大いに食べる
「おーい、ボーイさん。もう一本ワインくれや」
「パパったら、元気ね。でも、大丈夫?あ、と、で」
「ひひ、大丈夫さ。ボジョレー・ヌーボーって、解禁の日に飲むと縁起がいいんだってよ」
「あら、そうなの。ワタシもまた飲んでみようかな」
「何にいたしましょうか。こちらがリストでございます」
「おー、何でもいいぞ。選んでくれや」
「では、こちらのドメーヌ・ド・シュバリエの83年は、いかがでしょうか。フルボディの力強い赤でございまして、お料理にもお客様にもぴたりだと思いますが」
「うむ、わしに似て、ボディが力強いのか。じゃそれもらおう」
「きゃー、パパ素敵」
「ありがとうございました。きっとお気に召して頂けると思います」

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ディア・ハンターとなる 〜 ある日のディアハンター



ー サラサラと雪が降り掛かかっている。地面は固い雪、松がところどころにかたまりで生えている。松の枝でカムフラージュした陰に潜むハンター、ブルッと震えてから。
『いけね、寝ちゃってたよ。いびきが聞こえたかね』
『なんか寒くなってきたな。空も曇ってきたし鳥も鳴かないないし。もうそろそろ引けどきかな?帰るか?昨日と、一昨日も獲物がなかったからな』

ー ザックの口を開けてなかをごそごそ探るハンター
『ちぇっ、しょうがないな。ろくに食い物、残ってないな。酒は?』
ー ウィスキーフラスコを振ってみるハンター
『こっちもあんまり入ってないな。寒いし、もう飲んで帰っちゃうか』

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ー 双眼鏡で獲物を探すハンター
『なんかもう、白と黒のモノクロの世界だね。おほっ、いたじゃないか。こっちに向かってくるな。風向きは?っと』

ー 手袋をとって指をなめてから、頭の上にかざし、風を読むハンター
『まあまあだな。待ち伏せした方がいいなこりゃ』

ー しばらくたって。
『なかなか、こっちに来ないなー。動いてはいるんだけどな』
『こっちが見える筈ないし、風向きも変わってないよな。遅いんだよ。畜生!寒いじゃないか』
『動物に畜生、って言ってもしょうがないな。ちょっとウィスキーでも舐めるか』
『あー、沁みるな。この喉のやける感じがいいな。でも大事に飲まないとな。あんまり残ってないし』
『鉄砲は問題ないよな。うーん。大丈夫。しかしいいね。このベレッタ。自分のものなのに惚れ惚れしちゃうよな』
『そういや、ベレッタ好きなやつがいたな。どこで会ったんだっけ?』
『えーっとね。大分前だな。えーっと。そうだよ。渋谷の飲み屋だっけか。隣に座っていて、親の代からマタギだって言ってたもんな。そんで、そいつもベレッタが好きだって言ってたんだ』
『渋谷かー。あったかいんだろうな。焼き鳥の煙でいっぱいで。あー、飲みたいな』

ー ウィスキーフラスコに口をつけるハンター。
『うー、沁みるな。腹減ってるからな。胃に来るよな。なんか喰いたいけど。ビスケット食べちゃったし、米あるけど、今、火使うわけにいかないしな。なんか残ってないかな?』
『あー、カルパスソーセージが残ってた。しかし、固いね。こいつ。冷えきっとるからな。歯がかけるんじゃないの』
『あいつ、今どうしてんだろ。実家に帰って猟師やってんのかね』
『もう一口、飲んでもいいだろ。おほー、旨いね』
『ところで、なんで俺、こんなことやってんだ?この寒いのに』

ー 双眼鏡で獲物を探すハンター
『まだあそこか。はやく来いよ。通り道なんだから』
『渋谷のあの店、良かったよなー。狭くって。そういや、トマト焼きなんて串があったよ。プチトマトを肉で巻いて焼いたやつ。ああいう、可愛い感じの喰いもの、このところ喰ったことないよな。そういえば』
『冷えてきたね。なんだ?ちぇ、まつ毛が氷っちゃったよ。はやく来い。お、少し動いてきたね。いくらなんでもまだ遠いな。どれどれ』

ー 銃を構えてスコープを覗くハンター
『大分、遠いよな。この位の距離で当たれば凄いんだけどな。あいつ、腕がいいんだって、自慢してたけど、この距離と同じだな。ちょっとホラ吹いたんだろな。もしかしたら本当かも知んないけど』
『この前はあせっちゃって逃したからな。その前は、きれいに当てたんだけどな。あん時は、弾が吸い込まれていく感じだったからな』
『もう一口飲むか。うーん、口ん中がじんわりするね』
『あの頃はよかったな。毎日、酒飲んで、ねえちゃんと遊んで。本当に俺ってなにやってんだろ』
『近づいてきたね。まだまだだけど。あの焼き鳥屋どうしたかな。焼き加減がよかったよな』
『お、格好のいい角してるね。もうちょいだね。あいつでかいから、血抜きしたらいっぱい血が出るだろうな。切り口に手を突っ込むと暖かくて、手が真っ赤になって。なんか興奮してきた』
『よし、もうちょい来い。くそっレバーもよかったな。タレつけたの。やわらかくて』
『来た、来た。そう、ゆっくり。ハツもよかったよな。噛み締めるとこが』
『よしよし、もうちょい。それ首あげろ。タンも喰いたいな。塩振って』
『風、吹くなよ。よし、いい肩口だな、グッ。喉渇いたな。まてよ。もうちょい』

ー ざざっと言う枝をゆらす風の音
『ありゃ、風出たね。雪が舞って、よく見えねえな。動くなよ。えー、待て、このヤロ』
『ああー、逃げちゃったよ。風向き変わっちゃったのか』
『本当に俺って何やってんだろな。もー。どっこいしょっと。暗くなって来ちゃったよなー。あー、腰いてえ。寒いし。もう帰ろ。ウィスキーもなくなっちゃし。車まで一時間は歩かなきゃいけないし』
『そうだよな。俺って都会の人間だよな。こんな山ん中で凍えながら待ち伏せするなんて、俺に合わないよな。そうだよな。あのマタギやってたあいつ、呼んで一緒にあの焼き鳥屋で飲もう。あいつも女にゃもてなかったからな。慰めてやろう。こっちも同じか。もてないのは。ハンターもやめてしまお』

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福島に農地を買う 〜 ある日の俄(にわか)農夫



「こんにちはー♥」
「ああ、こんちは」
「何やってんですかー?」
「畑の手入れ」
「これ何ですかー?」
「ああ、これね、豆だよ。お嬢さん方、ハイキング?」
「そうなんですー。きゃー、これ豆なんだってー」
「うそー、丸くないじゃん」
「ばかだなー、違うよー。豆って畑の下に埋まってるんだよー」

「・・・・・」
「あー、これね。インゲンって言うんだよ。まだ青いけどね」
「私、知ってるー、ほら、スーパーに売ってるよー、さやいんげんってヤサイ」
「でも、あれって豆?ヤサイよねー」

「・・・ん、これがね豆なの。ほら、割ると丸いでしょ。今、青いけど、これ、サヤって言うんだけど枯れる頃にね、中のこれが大きくなって豆になるんだよ。そんときは、色も茶色くなるの」
「キャー、なんかエッチー」

「・・・でね、こっちが白インゲンで、あっちが赤インゲンなの」
「みんな緑よねー、赤くないよねー」

「・・・若いのはみんな緑色してるんだよ」
「へー、そうなんですか。勉強しちゃったー。じゃどうもー」
「どーもー」
「はい、気をつけてー」

「さてと、そろそろ網かけなきゃいけないな。去年はムクドリがいっぱい来たからな」 「トマトはもういいか。そろそろお終いだし。ナスはあれでいいと。来年のトマトはどうしようかね。うちのはちょっと水っぽい気がするんだよね。雨よけのハウス作ってみようかな。雨、あてなきゃ糖度上がるだろうし。でも、あれどの位、金かかるんだろな。後であのオヤジに聞いてみよ」

「おーい、帰ったよ」
「おっ帰りー。トマト取ってきてくれた?」
「ああ、ナスも取ってきた。インゲンも剪定してきたし」
「あらー、なんかこれ色悪いわね。こっちは虫喰ってるし」
「煮てしまえば、同じさ」
「そうよね。だけど、ナスとトマトとカボチャばっかりで、なんか飽きない?」
「ばか言え。そのうち、赤インゲンと白インゲンと虎豆ができるんだから」
「だけど、みんなインゲン豆でしょ」
「いいんだよ。俺、豆、好きだから」

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会社をつくる 〜 ある小企業の社長




ー 汗ふきふき社長登場
「いや、暑いね。暑い暑い、外はすごい暑さだよ」
「・・・・」
「いや暑いな。大橋さん、済まないけど、冷たい麦茶入れてくんないだろうか?」
「私、手が離せないんですけど。お茶汲みじゃないし」
「あー、そう。そうだよね。忙しいもんね」

ー 社長、冷蔵庫を開けて、麦茶のボトルからコップに麦茶を注いで、一息に飲み干す
「いやー、旨いな。ビール飲みたくなっちゃうよな。この暑さだと」
「・・・・」
「大橋さんさ、この前頼んだ企画書の件なんだけどさ、考えてくれた?」
「悪いんですけど、無理」
「いやさ、大橋さん、この前のA社の時はさ、とっても頑張ってくれたから、できると思うんだけど」
「無理、無理、私仕事たまっちゃってるし」

ー 作業服を来た若い男現れる
「社長!呼ばれました?」
「ああ、吉田君。そうそう。あの開発ね。今どうなってる?」
「どうなってるって、どういうことですか?うまく行ってますよ」
「あー、そう。それでいつくらいに目処が立つかな?早いほどいいんだけど」
「私、昨日も泊まり込みなんですよ」
「そう、そりゃ大変だね。それでさ、あの製品、弱い部分があるじゃない。先週、客からクレームが来た、あれ」
「あれはですね。今やってます」
「あ〜、そうよろしくお願いするよ」

ー 帰ろうとする若い男
「あ、それで吉田君さ。あの開発、いつ結果でるかな?」
「クレーム対応で忙しいんですよ。」
「あ〜、あの開発先々月に終わるって言ってたじゃない?吉田君がさ」
「クレーム対応で忙しいんだってば」
「・・・・」

『大橋さん、あの会社じゃ優秀だったんだろうな。あんなんだから、うちに来るしかなかったんだろうけど』
『吉田君もな、頭はいいんだけどな。T大出だし』

ー 場面暗くなる。電話が鳴る。また場面明るくなる
「社長、電話です」
「あ、うん、大橋さんありがとう。疲れがでちゃったかな。寝ちゃってたよ。それにしても恐ろしい夢だったな」

「はい、はい、私です。いや、どうも、はい、確認致します」
「大橋さん、この前頼んだ企画書の件さ、できてる」
「やですね、社長。お出かけになる前に机の上においてあったじゃありませんか」
「や、そうか、あんまり早いんで忘れちゃってたよ。そう、それで時間がなくて聞けなかったんだけど、あの企画書のクライアントの予測ね、どんなふうにしたの?」
「あれはですね。今までの台帳があるじゃないですか。あれを分析してみました」
「そうか。なるほどね、いやありがとう。取引先もね感心してたよ。いい企画だって」

ー 作業服を来た若い男現れる
「社長!お呼びでしょうか?」
「ああ、吉田君。そうそう。あの開発結果、昨日報告もらったじゃない?ちょっと聞きたいところがあって。」
「はい、あの部品の件ですね。社長お出かけになって説明する時間が足らなかったんですが。あれは材質を変えてみたんです。強度があがってコストも下がる予定です」
「そうか。そりゃいいね。ところで、あの製品、弱い部分があるじゃない。先週、客からクレームが来た、どうなってる?」
「ご報告しようと思ってたんですが、B社の納入部品に問題ありました。一応規格内で、全体的には問題ないんですが。クライアントもちょっと誤解があったみたいです。でも、営業の田中さんと相談しまして処理しまして、相手先に納得してもらいました」
「そう、そりゃ結構」

『大橋さん、あの会社でも優秀だったんだろうな。よく、うちに来てくれたな』
『吉田君もいいな、さすがT大出だ』

ー 場面暗くなる。電話が鳴る。また場面明るくなる
「社長、電話です」
「あ、うん、大橋さんありがとう。疲れがでちゃったかな。寝ちゃってたよ」

「ところで、大橋さんさ、この前頼んだ企画書の件なんだけどさ、考えてくれた?」
「悪いんですけど、無理」
「いやさ、大橋さん、この前のA社の時はさ、とっても頑張ってくれたから、できると思うんだけど」
「無理、無理、私仕事たまっちゃってるし」
「・・・・」
(2006/11/28)

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算数塾を開く 〜 個人が開いている小さな塾の教師



「はい、みなさん今晩は〜。今日も元気かな」
「・・・・」
ー 元気なわきゃネーだろ、という声が聞こえる
「それじゃ算数を始めるよー、もうすぐ、お正月だね、でも正月が明けると中学受験だからね、頑張ろーね」
「・・・・」
「おやー、疲れてんのかな?後で飴だすからね。それまで頑張って〜」
「じゃ、プリントの10ページ目開いて下さい。分数の計算だね」

ー 白板にマーカーで書き込む
「三分の一足す三分の一、イコールは?と」
「はい、分かる人、手を上げて」
「・・・・」
「おやー、誰も分かんないのかな。昨日も説明したよね」
「加藤君どうかな?」
「・・・・」
「あ、そうか、学校じゃ男女差別しちゃいけないから、さんづけ、するんだったよね」
「はい、加藤さん」
「・・三分の二・・」
「そうだね、三分の二です」
「どうして三分の二になったか説明できる人いますか?」
「・・・・」
「加藤さんは?」
「三分の二だから」
「そりゃそうなんだけどね。例えば、もうすぐクリスマスでクリスマスケーキ食べるよね?」
ー 泣き出す女の子あり

「丸いクリスマスケーキを三つに切って、ひとつずつ並べてみます」
「あれ、佐藤さん。どうしたの?」
「・・・・」
ー 女の子泣き続ける

「佐藤さんどうしたのかなー?ああ、去年の事思い出しちゃったの?」
ー うなづく女の子

「そっかー、去年は佐藤さん、お母さんが帰ってくるの遅くって、ケーキ食べる前に寝ちゃったんだよね」
「去年は、お母さんとデートしちゃったんだよね、先生、クリスマスに。いや良かったな。ウフ」
「あ、ごめん、ごめん。今年はもう大丈夫だよ。先生、お母さんと分かれたから、今年はお母さんきっと早く帰ってくるよ。大丈夫さ。泣くことないって」
「はい、授業続けるよ。それで、ケーキを三つ並べました。それで、ケーキを三つに分けたでしょ。だから三分の一で、これが二つで、一、二、三分の一が二つで?はい加藤さん?」
ー 急に大声を出して両手を振り回す男の子

「危ない、加藤さん。危ないってば、加藤君、加藤!しっかりしろ」
ー 肩で息をつく男の子

「大丈夫だよ。誰も殴ったりしないから」
「加藤君、去年のクリスマスは顔に痣作っちゃったもんな。お父さんが殴ったんだって」
「お父さんじゃない!!」
「あ、そうね、義理の父って言うんだよ。冷蔵庫に入っていたケーキを見つけて、加藤君、少し舐めちゃったんだよね。それでケーキ好きのお父さんが、誰が俺より先に食べたんだって、怒り狂ったんだよね。お母さんも、卑しい子ね、って言ったんだって?」
「・・そう・・」
「そっかー、でも今年は大丈夫だよ。本当はね、加藤君のね、お父さんね、先生の舎弟なの。でね、昨日ね、ちょっとシメといたから。だって加藤君可哀想じゃない?昨日ほら、お父さんの顔、腫れてだでしょ?こっちも加藤君のことちょっと考えて、思わず本気になっちゃったんだけどね」
「うん」
「だから、大丈夫だよ」
「はい、三分の一が二つで三分の二なんだよね。三つで三分の三で、元にもどるから一になるんだね」

ー はーい、という元気な声

「はい、じゃ次の問題」
(2006/11/27)

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ある日の浅草案内おじさん 



「さてと、浅草着いたね。今日はどんな客が来るだろね。可愛い女の子のグループがいいね、なんちゃって」
「おはよーございまーす」
「あら、おはよーございます。今日の担当でしたよね、よろしくお願いしまーす」
「はい、こちらこそ。今日は天気が良いし、暑くもなく寒くもなく、いい具合ですね」
「そうですよね。こないだの時代祭り、来られました?」
「いやー、あん時、丁度用事ができちゃってね。これなかったんですよ」

「スマセーン。ワタシ、アサクサキマシタ。ココニがいどイルカ?」
「はーい、こちらにいらっしゃいます。浅草は初めてですか?」
「いえす。がいどハタダカ?」
「そうです。約一時間のご案内なんですが、よろしいですか?」
「いえす。がいどノタダカ?」
「そうです。では、こちらにお名前を書いて下さーい」

「じゃー、よろしくー」
「はい、こんにちは」
「コニチハ、ドーモ」
「私の名前はぎんじです。よろしく」
「ギンチー、ワタシ、ジョー、ドーモ」
「じゃ、でかけましょう」

「まず、ここが雷門です。これが提灯で、ここに雷門って、書いてあるんですよ。で、両側にいらっしゃるのが、風神と雷神」
「おっけー、カミナリノモンネ。きゃめら、トッテネー。ココカラ」
「はい、じゃ、ここに立って。撮りますよ。チーズ」
「ちーず?クレルノカ?」
「いいえ、ほら、チーズってやるとにっこりしてよく写るでしょ」
「ナニ、ウレシイノカ」
「ジョーさん、日本語がお上手ですね。どこかで習ったんですか?」
「ニホンゴ?ナラッタヨ。カノジョニ」
「ああ、奥様ね。奥さん日本人なんですか?」
「オクサン、チュウゴクデスネ」
「ああ、今中国にいらっしゃる?それで、旦那さん一人で日本で待ってらっしゃると」
「ソー、オクサンチュウゴクジン、カノジョガカンコクデスネ。カノジョニナラッタ」
「はー、色々複雑らしいですね?」
「フクザツ?フクガざっつ?ヤー、アノミセノフク。イロガキレイデスネ」
「これが仲見世で、おみやげが一杯売ってるんですよ。この浴衣ね、ナイトガウンに皆さん買ってらっしゃいますね」
「ないとがうん、ヤー。キレイ。コレナンテヨム?」
「これね、一番って書いてますね。こっちは闘魂。あっちが根性ですね」
「コンジョー?ダイコンノコト?」
「いえね。気合いが入ってるってことですかね」
「ヤー、きうい。ダイコンモネ。ニンジンシッテル」

「はい、ここが宝蔵門ですね。今工事中だけど」
「ホーゾーモン。ドンナイミカ?」
「お経ですね。それを門の上に安置してあります」
「オキョー、ナニカ?」
「仏様のお言葉ですね」
「ホトケサマ、ナニカ?」
「ブッダとブッダがいろいろと変身なされた形ですね」
「ヘンシン、カメンライダーハ、ブッダノヘンシンダッタカ。ダカラツヨイ」
「まあ、そんなもんです。先に行きましょう」
「ここが、お線香をあげる大香炉ですね。煙を体の悪いところにつけるとよくなるなんて、言う人がいますね。お線香あげてみます?百円なんですが」
「オセンコ、アゲタイ。カッテクダサイ」
「はい、分かりました。こっちですよ。ここで、お線香を買います。はい、百円で」

「オッケー、ヒャクエン。コノすてぃっくハ、ナニノカ?」
「何にするのか?ですね。これに願い事を書くんですよ。ご自分の名前もかいて。護摩木ってんですがね、後で坊さんが護摩を焚く時にこれを燃やして、観音様にお願いするって寸法です」
「ゴマ?ア、シッテル。せさみネ。あらびあんないとトオナジネ、ネガイカナイマスデス。とれじゃー、モラエルカ?」
「いいえ。普通は交通事故に遭わないように、とか、病気が治りますようにとか、家内安全とかです」
「カナイ、シッテル。オクサンノコト。オクサンガオコッテモ、アンゼンネ」
「そうですね。安全です」

「はい、ここが本堂です。今日も人が一杯ですね。階段の右と左に看板があるでしょ。本当は聯っていうんですが、右側にはですね、実相は荘厳にあらざれども金碧よそおいをなす安楽さつ、左側のは、真身は表装をぜっすれども雲霞描きだすふだ山、と書いてあるんですよ。本当のところはこんなもんじゃないんだけれど、立派な寺を作って仏さまの世界をおし頂く、とういう意味ですね」
「ソウ、オネガイノカンバンネ。ワカリマス。ダカラガンジョーニスルタメ、こんくりーとデスネ」
「それから、この大きな提灯なんですが、新橋の芸者連が奉納したものです」
「オー、ゲイシャ、フジヤマ、ヨクシッテマス。ゲイシャ、ドコイルカ」
「きょうはいないようですよ。運がよけりゃ見つけることはできるんですが。さ、階段上がって。ここが本堂ですね。で、この奥に観音様があの厨子の中におられます」
「スシ。クウノカ?」
「寿司は奉納されてませんね。でも、ほら花輪やあそこの酒、果物なんかは信者の奉納品ですよ。きれいでしょ。花も赤や黄色や色とりどりで。ここでお賽銭を上げます。花と線香とお金とが三点セットなんですよ本当は」
「サケ、イッパイネ。ダレノムノカ?」
「誰が飲むんですかね。近所のお寺の手伝いの人にいくんだと思うんですが。お酒好きですか?」
「ニホンノサケ、スキデス。ノミタイ」

「じゃ、ちょっとこの屋台に入って飲んでみますか」
「おじさーん、コップ酒二つね。それとおでん二皿」
「おでんは、私のおごりですよ。まあ、どうぞ。美味しいですか?」
「オイシイネ。アサクサ、スバラシイ」
「いやー、喜んで頂いてこっちも嬉しいですよ。本当に。じゃどうも」
「ドーモー」

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ある朝の夜警 



ー 朝日のあたっている道ばた。カモメの声が聞こえる。

「あー、今日はいい朝焼けだな。ちょいと白っぽくて。風もないし、寒くないし」 「ちょっと海の匂いがするな。いつもは油臭いのに」
「やあ、おはよー。今、帰り?」
「そう。オジさんも?」
「ああ、そうだよ。元気?」
「ちょぼちょぼよね。オジさん、このごろ来てくんないじゃない?」
「そういや、行ってないか。ちょっと、こっちもシフトが変わったもんだから、でもそのうち、顔だすよ」
「あら、本当?」
「本当さ。ところで、マスターも元気?」
「マスター?まあね。でも、なんかマスターこの頃、やる気なくってさ。ひどいんだよ。私おいて、帰っちゃうんだから」
「マスターか?信用してんだろ。店まかせてもって。ま、年寄りになったんでツライんだろ。ハハッ、こっちもだけどね」
「あらー、オジさんまだ若いわよ」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいね」

ー ちょっと黙ってバス停に向かって歩く二人

「あのね」
「何?」
「ちょっとさ、私、この頃、変わって見えない?」
「うーん、そうだね、『ちょっと疲れた顔してるよね。化粧が剥げてるせいかな』、特に変わったようには見えないけどね。可愛くなったかな」
「ヤダー、嘘ばっかり。よく来るお客さんで、田中さん知ってる?」
「あー、知ってるよ。あの競馬好きの。この前、当てたって言ってたな」
「あの人ね意地悪なの」
「そう、そう見えないけどね。どうして」
「なにかね。私がね、ちょっと真面目な話しようとすると、すぐ誤摩化すのよね」
「ああ、眠かったんで、話をよく聞いてなかったんじゃないの」
「それでね、来週きっとくるなんて、言ってたのに、今週まだ顔見せないのよ」
「ふーん。あれ、バス来たよ」

ー 走ってバス停に着いた二人

「ハアー、間に合った。あ、そっちのバスか」
「じゃ、またね」
「じゃオジさん、またー」

ー 出て行くバス

『田中さんかー。この前、別の女と腕組んでるのを見たなー。でも田中さんも、あんたの気持ち分かってるから、きっとそのうち、なんとかなるよ』
「おっと、こっちのバスも来たね。あ、いい天気だね。腹減っちゃったな。駅に着いたら牛丼でも喰うかね、久しぶりに」

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ある名取りの稽古



ー 四畳半に若い女師匠と男の弟子、相対して座っている
「はい、もう一度、テテチン、テテチン、テテチーンチ、テンチン、シャン」
「はい、テテチーンチ、テンチン、シャン、と」
「ま、そんなもんですか。はい、今日は終わりにしましょ」
「ありがとうございました」
「はい、お疲れさま」
「ところで、お師匠。今度の舞台なんですが、あちらの方にも出て頂くように頼んだ方がよござんしょか?」
「そうだよ。昨日ね、こっちから頼んどいたわよ」
「あ、そうですか。やっぱりよし江姐さんですか」
「そうだよ。よく知ってるわね。向こうから言って来た?」
「いえ、たぶんそうだと思いまして。よし江姐さん、おきれいですもんね」
「何、言ってんだい。あのぐらいの腕がなけりゃ、舞台が成り立ちませんよ」
「そうですよね。お上手だし、でもね、ちょっと」
「何だい?奥歯にもののはさまった言い方して」
「あの姐さん、お奇麗だけど、意地悪じゃないですか、なんか」
「いいじゃないの」
「いえね、私ね、心配なんですよ。お師匠が。うっ」
「なんだい、なんだい。良い齢の男が泣いて」
「いえっ!私、体は男でも心は女ですっ!」
「なんにもありゃしないよ。ちょっと借りがあるだけさ」
「でもっ、何かあるんじゃないかと」
「心配しなさんなって」

ー 女師匠の部屋、電話が鳴る
「はい、私です。あー、今日は、いーえ、御陰さまで。いいえ」
「今度の舞台ですか。えー準備は進んでます。えー、ちょっと助っ人、頼むつもりですの」
「え、またですか、あの男。また、言って来たんですか。よし江姐さんと仲がいいからって」
「いえね、私もこういう仕事してますから、色んな人見てますよ。でもね、借りがあるからって、何でも言っていい、って訳じゃありませんよ」
「ええ、ええ、じゃこっちから電話しときます」

ー 女師匠電話をかける
「もしもし、・・・ですが、・・・さん、いらっしゃいますか?」
「ええ、さようです」
「あ、今日は、どうもご無沙汰しております。ええ、その件ですか。よし江姐さんにもお伝えしたんですが」
「ええ、ちょっとお受けしかねます。ええ、わたくしも都合がございまして。えっ?」
「それは、ご存知かと思いますが。そうじゃないでしょうか。受けかねます」
「え、それは筋が違ってるんじゃないでしょうか」
「え、いい加減にして頂きたいんですが」
「だから、そう言ってるん・・・」
「そう言ってんだろ。このー、おととい来やがれ」

ー ガチャンと電話を切る
「どアホー」

ー 障子の陰で弟子の男
「ウッ、やっぱり心配。」
「おっ、そこに居たのかい。心配いらねーよ。こっちは体は女でも心は男一匹よ」
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家電品修理販売業 〜 ある日の街の電器屋さん




ー 電話機のベルの鳴る音
「はい、毎度どうも、正直電器店です」
「はいはい、この前お買い上げのアイロンですか?全然熱くならないと。はいはい」
「いやいや、不良品を売ったり致しませんよ。ほら、ちゃんと保証書差し上げたじゃないですか。それ、持ってきて頂ければ」
「え、もうなくしちゃったんですか?保証書ないとこちらもメーカーに出せないんですが」
「覚えがないと、近所なんだから何とかしろと。はーい、分かりました。でもちょっと確かめて頂きたいんですが。いーえ、ちゃんと修理しますから。様子を知っておきたいものですから」
「ふむふむ。なるほどね。赤いランプも何も点いていないと。ダイヤルは切りになってません?」
「なるほど。ちゃんと木綿のところね。はいはい、ところで、アイロンの後ろからコード出てますよね。それどこ行ってます?確かめて頂きたいんですが」
「ああ、引っ張ったら手元に来たと」

ー ガチャンと電話を切る音

「しょうがないな、もう。でも引き取りにこい、なんて言われずによかったよ」

ー ドアの開く音
「いらっしゃいませ」
「はい、トースター。うちでお買い上げ頂いた。故障ですか。指で押さえてないとパンが焼けない。成る程。ちょっと見させてもらって良いですか?」

ー 箱を開けて、壁のコンセントにトースターをつなぐ
「なるほどね。こうカチッといかないですね。いつからですか?こうなったの」
「半年前から。そうですか。で、毎朝、パンが焼けるまで、こうして、指で押さえていて。さすがに?いやになったと。なるほど」
「これね。すぐ直ります。ちょっとお待ち頂けますか」

ー トースターを分解し、ハケで掃除する電器屋。あっと言う間に元に戻す
「これね。カチッと磁石でくっつくようになってるんですがね。パンの粉がはさまってたんですよ。もう大丈夫」
「修理代ですか。いいです、いいです。いえいえ、ちょっと掃除しただけだから」

ー 電話機のベルの鳴る音
「はい、毎度どうも、正直電器店です」
「はいはい、エアコンが、全然効かなくて、寒いと。はい。エアコンから風出てます?はい?はあ、風は出てると。暖かいですか?暖かい感じはする。はあ、冷たくはないと」
「はいはい、わかりました。三丁目の田中さん。わかりました。これから伺います」
「三丁目の田中さんね。えーとノート、ノート、田中、田中、あったあった。半年前に売ったエアコンだね。そういや婆さんの独り住まいだったな」

ー ピンポンとドアベルの鳴る音
「こんにちはー、先ほど電話頂いた正直屋でーす。エアコン修理に参りましたー」
「ほんとに正直屋かって?本当ですってば。さっき電話受けたじゃないですか。横で聞いてた誰かかかしんない?そんなことありませんよ。ほら、半年前にエアコン取り替えに来たじゃないですか」
「はい。どーも。じゃ上がらさせてもらいまーす。だいじょぶですよ。強盗じゃないんだから」
「エアコンどこですか?こっちの居間ですね」
『うわ、汚ねーな。動物くさいし』
「おたくさん猫飼ってらっしゃるんですか。はー、猫じゃなくて犬、五匹。はー、そうですか。可愛いだろうって?そうですね。可愛いじゃないんでしょうか」
「こちらのエアコンですね。分かりました」
ー エアコンを覗き込む電器屋

『うあ、このフィルタ、埃で詰まっちゃってるよ。ひどいね』
「分かりました。これね。フィルタが詰まってるんですよ。交換します?はい、見積もりすぐできますよ」
「えーとですね。フィルタ代と、技術料と出張費でですね。合わせて一万七千九百円です。でもお得意さんですから、端数は値引きさせて頂きますよ」
「わかりました。じゃ修理させていただきます」

ー フィルタを交換したり、あれこれ掃除する電器屋
「はい、終わりました。ほら、暖かいでしょう。直りました」
「じゃ、どうもー、ありがとうございました。わんちゃんもバイバイねー」

ー 車に戻る電器屋
『フィルタ掃除するだけなんだけどな。このところ多いんだよな、ああいう人。おかげでこっちの商売が続くんだけど。きょうは儲かったから、また飲みにいくか。そういえば、あの飲み屋も三丁目だったな。飲み屋のねえちゃん、あの婆さんに似てる気がするし」
(2006/11/27)

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